「夏目漱石の美術世界展」 詳報
今期(7/30-8/4)出品されている184点を通じて、漱石が洋の東西の美術に造詣が深く、自身も書画をよくする芸術家であったことが改めてよくわかりました。
漱石の作品に登場する絵画や彫刻、同時代の画家の作品などもキャプションで丁寧に紹介されており、理解を深めることができます。出品作品数が多いこともあって、ひととおり見終えるのにかなり時間がかかります。
序章:「吾輩」が見た漱石と美術
岡本一平の水彩画《漱石》、樋口五葉の『吾輩ハ猫デアル』の装丁や画稿、朝倉文夫の《つるされた猫》
第一章:漱石文学と西洋美術
ターナーの《金枝》は『坊ちゃん』の中で教頭の赤シャツと美術教師原だの会話に登場します。幹がまっすぐに伸びた松が印象的です。ターナーらしい色彩感覚と風景描写がみごとです。
ターナーの作品はこのほかに2点。そのうちの1点は静岡県立美術館所蔵の《パッランツァ、マッジョーレ湖》です。《金枝》など2点はロンドンのテイト美術館蔵。
この章ではロセッティやミレイの作品も登場します。
第二章:漱石文学と古美術
漱石が古美術にも深い関心と知識を有していたことを物語る狩野探幽、浦上春琴、川合玉章などの作品。
第三章:文学作品と美術
この章では漱石の主な文学作品に登場する画家の絵が次々と展示されています。
国重文指定の与謝蕪村《竹渓訪隠図》は11日まで展示。
『草枕』に登場する平福百穂《田舎嫁入》、伊藤若冲は《梅と鶴》など3点。
『三四郎』では…
三四郎池の雰囲気を思わせる藤島武二《池畔納涼》、グルーズの《少女の頭部像》、ウォーターハウスの《人魚》などのほか、作中で深見画伯として登場する浅井忠の《ベネツィア》、原口画伯の黒田清輝《婦人図(厨房)》など。
『それから』では…
青木繁の作品が3点。中でも国重文の《わだつみのいろこの宮》は必見です。
さらに、酒井抱一の国重文《月に秋草図屏風》の名品も11日まで出品。
第四章:漱石と同時代美術
同時代を生き、共に活躍した画家たち…横山大観、和田英作、坂本繁二郎、南薫造、萬鉄五郎、中村不折、岸田劉生、結城素明など。ここでも青木繁の作品が4点登場します。大観の重文2点も出品されています。
第五章:親交の画家たち
同時代にあって特に親交のあった画家5人。浅井忠・樋口五葉・中村不折・津田青楓。
第六章:漱石自筆の作品
絵画、書、原稿など20点。南画を愛した漱石の南画風の作品が見事です。中でもまさに桃源郷の風景を描いた《青嶂紅花図》がすばらしい。書も立派。
第七章:装丁と挿画
漱石自筆の装丁原稿など6点と樋口五葉の装丁、挿画など。
以上、重文7点を含む184点は夏目漱石の美術世界を鮮やかに見せてくれます。
この展覧会を観ると、漱石の名作をもう一度読んでみたくなります。
静岡県立美術館で 8月25日まで6日からと13日から一部展示替えがあります。
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