映画「新しき土」:主演は16歳の原節子
1936年にデビューした原節子が初めて主演した映画です。その時16歳。スクリーンで見る原節子は美しすぎてまぶしい。近寄りがたくて遠くから仰ぎ見る…という存在です。
この映画は日独合作で制作されました。監督は伊丹万三とドイツのアーノルド・ファンクです。二人の意見が食い違ったために、伊丹版とファンク版があり、今回上映されているのはファンク版です。
1937年の初公開からちょうど50年、今年の春から全国で順次リバイバル上映されています。
映画としては信じがたいほどのはちゃめちゃな内容です。人間の生き方を描いたドラマというよりは、当時急速に接近して日本と手を結ぼうとしていたドイツ国民に日本の様子、日本人の暮らしや文化を知らせるという「国策映画」の性格が色濃く出ている「映画」です。この映画が制作された年の11月に日独防共協定が締結されています。
歌舞伎・能・華道・茶道・弓道・薙刀などが次々と登場します。主役の原節子演ずる光子の家は富士山麓にあるらしいのですが、その家の裏は瀬戸内海の宮島で、光子が厳島神社のシカと戯れる場面が出てきます。富士山は表富士、裏富士、三保海岸からの富士、田子の浦の富士、伊豆からの富士と盛りだくさんでドラマとは無関係に画面に登場します。帝国ホテルの場面では阪神電車のネオンが映ります。
光子は長年ヨーロッパに留学していた輝男の許嫁でしたが、帰国した輝男は養子や許嫁という日本古来の風習に疑問を感じ、光子との結婚をやめようとします。
絶望した光子は晴れ着の和服を風呂敷に包んで自宅裏の火山に登って行きます。和服姿の光子が活発に噴火し、足元から火山ガスを吹き出している中を頂上まで登って行くという信じがたい情景。さらにその光子を追う輝男が着衣のまま池に飛び込み、靴を脱いだままで血だらけになって登って行く。光子が火口に飛び込む寸前に間に合って抱きしめた輝男は光子を抱きかかえて悪路を下りていくというこれまた信じがたい情景が続きます。明神池と焼岳でロケしたとのことですが、この場面が延々と続きます。
場面は変わって、日本の国土が狭いという話のあと、画面は広大な平野でトラクターが稼働している場面に転換します。野良着の光子と輝男、そして生まれた子が明るい表情で「新しい土」に立っています。この新しき土こそ「満州国」です。
ロケ先は東京・大阪・神戸・京都・奈良・鎌倉・東尋坊・宮島・松島・富士山麓・別府・阿蘇山・浅間山・新潟・姥捨・琵琶湖など全国各地です。
原節子は和服・水着・パジャマ・ドレス・セーラー服・剣道着そしてラストシーンの満州では野良着と着せ替え人形のように衣装が変わっていきます。どれを着てもよく似合って美しいのが原節子…ですね。
音楽は山田耕筰、撮影協力(現在の特撮)は円谷英二。衣装担当は松坂屋です。
ドラマの展開を無視して、原節子と美しい山岳風景に注目すればその点では満足できる映画です。
原節子は92歳で健在です。
浜松 シネマ イーラで21日まで。
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コメント
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やまももと申します、初めまして。
9月22日に映画「新しき土」を観ました。この映画に対するコメントを拙ブログ「ポンコツ山のタヌキの便り」に書いた後、他の方の感想も拝見したくてインターネットで検索していましたら、貴ブログ「ゆるやかに時は流れる」の9月19日に「映画としては信じがたいほどのはちゃめちゃな内容です。人間の生き方を描いたドラマというよりは、当時急速に接近して日本と手を結ぼうとしていたドイツ国民に日本の様子、日本人の暮らしや文化を知らせるという『国策映画』の性格が色濃く出ている『映画』です」と的確なコメントが載っていることを知りました。
しかしまた「原節子は和服・水着・パジャマ・ドレス・セーラー服・剣道着そしてラストシーンの満州では野良着と着せ替え人形のように衣装が変わっていきます。どれを着てもよく似合って美しいのが原節子…ですね。(中略)ドラマの展開を無視して、原節子と美しい山岳風景に注目すればその点では満足できる映画です」ともコメントしておられ、この点も全く同感です。
この他、「映画」のカテゴリで「ひまわり」や「ALWAYS 三丁目の夕日 ’64」も拝見しましたが、とても共感できるコメント内容でした。これをご縁にこれからもよろしくお願いいたします。
投稿: やまもも | 2012年9月25日 (火) 12時50分