劇団青年座「黄昏」
久しぶりにいい舞台を観ました。まずアーネスト・トンプソンの原作がよくできています。その名作を津嘉山正種などの俳優陣の名演が生かしています。
「黄昏」は1981年にハリウッドで映画化されてこの年のアカデミー賞3部門(主演男優賞・主演女優賞・脚本賞)を獲得しました。主演男優賞は主人公ノーマンを演じたヘンリー・フォンダ、その妻エセルを演じたキャサリン・ヘプバーンが女優賞です。娘のチェルシーを演じたのは当時父親のヘンリー・フォンダとの確執が取りざたされていたジェームズ・フォンダでした。日本でも多くの映画ファンを魅了した名画です。
青年座は1995年に創立40周年記念としてこの演劇を上演し、今では劇団の「財産」になっています。
アメリカ北東部ニューイングランド。大小の湖が散在する湖水地方の別荘が舞台です。ゴールデンポンドと呼ばれる朝夕は黄金色に輝く湖の畔。
まもなく80歳を迎える元大学教授のノーマンはしのびよる老いと死におびえています。70歳近い妻エセルは無邪気で明るく、頑固で理屈っぽく、時に弱気になるノーマンを懸命に支えています。
二人で暮らす別荘に、離婚歴のある一人娘のチェルシーが新しい恋人とその息子を連れて8年ぶりに帰ってきます。
娘夫婦がヨーロッパへ出かけている間、男の子ビリーを別荘で預かることになりました。
純真で無邪気なビリーと生活を共にする中でノーマンの生活は変わり人柄も明るくなっていきます。旅先から帰ってきた娘チェルシーとも再び心が通い始めます。
年老いた夫婦の心情、親子の確執と和解、孫になる子供との交流…それぞれにしみじみと、そして心温まる情景が展開されて舞台に引き込まれます。
映画と違って美しいゴールデンポンドは舞台では見ることができません。窓の外の木々が朝日や夕陽に照らされて美しく輝くシーンが湖の美しさを想像させてくれます。
ノーマンを演じる津嘉山正種(つかやま まさね)は現在67歳で自分よりも一回り高齢の役を務めています。ちょっとした動きや歩きに80歳の男性の特徴的な動きがごく自然に出ているのに感心します。この演技に対して平成22年度芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)を授与されています。まさにはまり役です。
妻エセルを演じた岩倉高子は実年齢71歳でエセルとほぼ同じです。ノーマンに対してたえず優しい気配りを示す妻の役をしっかりと演じていました。
老醜に近いやるせない状況が展開される一方ではユーモラスな会話があちこちで飛び交い、観客の笑いを誘います。
私たち一人一人に自分の生き方を考えさせてくれる深い内容を持った舞台でした。
休憩15分を含めて2時間45分という長い時間を感じさせない濃密な時間でした。
5月20日所見・浜松Uホール・浜松演劇鑑賞会
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