映画「歩いても歩いても」
夫婦、親子、兄弟の間に微妙に生じるすれ違いや誤解。この映画を見る人の多くは自分自身に同じような体験がある、身に覚えがあると思ったのではないでしょうか。
医院を廃業した初老の夫婦の家に娘や息子が家族を連れてお盆に里帰りします。長男は15年前に海で溺れかけた少年を助けようとして自分が犠牲になりました。そのことが両親にとっては今もなお大きな心の傷となって残っています。
医院を継ぐことが期待された亡き長男と違って、絵画修復師という特殊な仕事でしかも失業中の次男に父は辛く当たります。次男は子連れの女性と結婚しています。
映画はお盆の頃の一日を淡々と描いています。昭和30年代と思われる医院の佇まい。家の中の情景、家具・調度品。見慣れた風景の中で父と次男、夫婦、嫁と姑、次男と息子の会話が展開されます。身内でありながらそれぞれにしっくりせず、時には棘を含み、時には明らかに相手を拒絶する微妙な人間関係。見ていて「わかるわかる。そういうこともあるな」・・と納得してしまいます。次男とその妻は「里帰りは年に1回でいい。来年のお正月はやめよう」と・・。
「歩いても歩いても」は映画の中で母が歌う「ブルーライト横浜」(いしだあゆみ)の歌詞に出てきます。歩いても歩いても人生は終わりのない旅と言いたいのでしょうか。
次男は「いつもちょっとだけ間に合わないんだよなー」とつぶやきます。
母は樹木希林、父は原田芳雄です。樹木希林の存在感が圧倒的で、日常の生活を写し取ったような自然そのものの演技でみごとです。がんこでわがままな元医師の原田もいい。
次男は阿部寛です。実年齢と同じ役どころで好演です。両親と弟の間をとりもつ姉を演じているYOUがなかなかいい感じです。
ある家族のたった1日を描きながら、家族同士の愛しさ、相克、悲しみ、笑いなどいろいろな要素が胸に迫ってきます。自分の生き方や家族の在り方を考えさせてくれる映画でした。
9月12日まで 浜松・松菱劇場
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